1975年にイタリア・プーリア州で誕生したパンツ専業ブランド、BERWICH(ベルウィッチ)。「100% Made in Italy」を貫き、サルトリアの伝統に根差したクラシカルな美学を追求しています。その最大の特徴は、ゆとりある腰回りから裾へ流れる唯一無二のテーパードシルエットと、プリーツやサイドアジャスターといったヴィンテージ由来のディテール。ファクトリーブランドならではの優れたコストパフォーマンスも魅力です。本記事では、BERWICHの歴史と哲学を紐解き、MORELLO、SPIAGGIA、RETRO、CHIAIAといった多彩な代表モデルの特徴を解説します。

BERWICHの誕生|プーリアの美意識と「100% Made in Italy」という誇り
1975年、イタリアの長靴の“かかと”部分、プーリア州マルティナフランカに誕生したBERWICH。 アドリア海に面したプーリアの地は、古代から様々な国に侵略統治され、多様な文化や宗教が混在し発展してきた、深い歴史を刻む場所。現代のキーワード「スローライフ」をそのまま映したような街並みは美意識に満ち溢れ、ファッションやアートの世界に尽きないインスピレーションを注いできました。特に有名なのがレースや刺繍といった装飾的な織物で、今でも数多くのクチュールメゾンを支えています。


グッチ、ドルチェ&ガッバーナ、そしてディオール。名だたるブランドがこの地でコレクションを発表し、近年プーリア州は観光地としてだけでなく、クリエイターからも熱い注目を浴びています。
そんなプーリア州に、ミケーレ・フマローラ氏とアンナ・フマローラ夫妻が設立したパンツ専門ファクトリー「ICOMAN社」こそ、BERWICHの原点。そのパンツが誇る確かな品質とクラフトマンシップの背景には、この土地で脈々と受け継がれてきた伝統技術と職人たちの誇りが息づいています。
創業以来、BERWICHが一貫して守り続けていること、それは「100% Made in Italy」へのこだわり。デザインから生地選定、パターン、縫製、仕上げに至るまで、全工程をイタリア国内の自社工場で完結させています。コスト削減のために生産拠点を海外に移すブランドが珍しくない現代において、この姿勢は品質と伝統技術の継承を最優先する、彼らの揺るぎない決意の表れと言えるでしょう。

南イタリアの風と、揺るぎないクラシックの融合
さて、プーリアと言えば、日本でも人気のクラシコ系ブランド、TAGLIATORE(タリアトーレ)を思い浮かべる方も多いかもしれません。そして、TAGLIATOREの魅力を語る上で欠かせないのが、創業者ピーノ・レラリオ氏の圧倒的な個性とカリスマ性です。彼のスタイルそのものがブランドの象徴であり、構築的で力強いショルダーラインや、大胆な生地選びに見て取れる情熱的で色気のあるスタイルは、まさに「伊達男の美学」の現れ。これは、自己を表現し、ファッションを謳歌する南イタリアの開放的な文化を体現していると言えるでしょう。
しかし、同じプーリアの空気を吸いながら、BERWICHが描き出すのは、それとは異なる静かな、しかし確固たる世界観です。その違いの根源は、ブランドの出自にあります。BERWICHは、デザイナー個人のスタイルを前面に出すのではなく、パンツ専門のファクトリーとしての長年の経験と技術を核として生まれました。主役はあくまで、一本一本のパンツそのもの。だからこそ、BERWICHの魅力は、一目でわかる華やかさよりも、穿いた時に初めてわかる「内省的な美学」に宿っています。
もちろん、カプリシャツに代表されるようなリラックスしたリゾート感も、BERWICHの感性の一部ではあります。ですが、ブランドの根幹をなすのは、あくまでサルトリア(仕立て屋)の伝統に根差した「クラシカル」な哲学。それは、ヴィンテージのディテールに対する深い敬意と、人体の構造を熟知したファクトリーだからこそ可能な、緻密なパターンメイキングの中にこそ見出すことができるのです。
TAGLIATOREが「表現する喜び」をもたらす服だとするならば、BERWICHは「信頼できる土台」となってくれる服。プーリアという同じ豊かな土壌から、これほどアプローチの違う二つの魅力が花開いたことこそ、この土地の奥深さの証明なのかもしれません。そしてその「クラシカル」な美学の神髄は、BERWICHのパンツの細部にこそ見て取れるのです。
BERWICH
TAGLIATORE
- クラシックのディテール
昨今のパンツトレンドであるプリーツやサイドアジャスター。BERWICHは、これらのディテールをいち早く、そして極めて巧みに取り入れてきました。特筆すべきは、ゆったりとした腰回りから裾にかけて美しくテーパードする、その唯一無二のシルエット。これは単に流行を追ったものではなく、快適な穿き心地と、大人の男性にふさわしいエレガントな見た目を両立させるための、計算され尽くした設計思想の表れです。ただ細いだけのパンツとは一線を画す、構築的で美しいラインがそこにあります。
- 細部に宿るシグネチャー
バックポケットに時折見られる、5つの穴でブランドのアイコン「W」を表現したステッチボタン。これ見よがしなロゴに頼らず、こうした洗練された形でアイデンティティを示す手法は、BERWICHの品質への自信と、本質を理解する者だけに向けた静かなメッセージ。まさに、ブランドの哲学を体現する、控えめながらもユニークなシグネチャーディテールです。

- ファクトリーブランド
BERWICHは、企画から生産までを一貫して自社で行うファクトリーブランドから誕生したブランド。これは、高い品質管理を徹底していることだけでなく、優れたコストパフォーマンスという面で我々に大きな価値をもたらします。同等クラスの他のイタリアブランドと比較しても、BERWICHのパンツが比較的手に取りやすい価格帯であることは、品質と価格のバランスを重視する大人の男性にとって、これ以上ない魅力と言えるでしょう。
BERWICH 代表モデル解説
BERWICHのコレクションは、クラシックをベースとした、多彩なモデルによって構成されています。ここでは、その中でも特に注目すべき代表的なモデルをご紹介します。

MORELLO(モレッロ)
現代的なスリムテーパード
BERWICHのラインナップの中で、最も現代的で洗練されたスリムテーパードを代表する一本。ヒップ周りから裾にかけてのすっきりとした直線的なラインが、シャープで都会的な印象を与える。ワンプリーツ仕様もあり、適度なリラックス感とドレッシーな雰囲気を両立。スリムフィットでありながら窮屈さを感じさせない、ノンストレスな穿き心地も魅力。いわゆる「細身スラックス」の決定版です。

SPIAGGIA(スピアッジャ)
リラックス感と美シルエットの融合
イタリア語で「浜辺」を意味する名の通り、リラックスした雰囲気と美しいシルエットを高次元で融合させたモデル。細すぎず太すぎない絶妙なバランスのテーパードラインは、脚長効果も期待できる。やや深めの股上は安定感があり、快適な穿き心地。カジュアルなシーンでも品格を保ちたい大人に最適な一本。

RETRO(レトロ)
ヴィンテージの薫りを現代的に再解釈
クラシックなヴィンテージスタイルからインスピレーションを得た、ブランドの個性が光るモデル。型番によってはサイドアジャスターやドローコードといった、より快適さを求めたディテールもポイント。過去のデザインを単に模倣するのではなく、BERWICHならではの現代的なフィルターを通して再構築することで、新鮮な魅力を放つ。ファッションメディアとのコラボレーションで、日本人体型に合わせてフィットを調整したモデルが生まれるなど、常に進化を続けている。

BARBER(バーバー)
オーセンティック・トラウザーズ
古き良き時代の理容師(バーバー)が穿いていたワークウェアから着想を得た、物語性豊かな一本。RETROやSPIAGGIAよりも余裕のあるツータックやクラシックなサスペンダーボタンは、かつての職人たちが求めた機能美の表れ。単なるクラシックなパンツとしてだけでなく、その歴史や物語と共に、粋な着崩しを楽しみたい本物志向の大人にこそふさわしいモデルです。

CHIAIA(キアイア)
都会に映えるモダンエレガンス
高めに設定されたウエスト位置からクロップド丈の裾へ、急激にテーパードするラインが最大の特徴。深めのインプリーツがもたらす優雅なドレープ感と、メリハリの効いたシルエットが、モダンで都会的なエレガンスを体現。
上記のモデルに加え、ブランドの顔とも言えるのがSCOTCH(スコッチ)とSAKE(サケ)である。SCOTCHは、2プリーツにサイドアジャスター仕様のワイドテーパードシルエットで、クラシックなディテールと現代的なリラックス感を両立した不動の人気モデル。一方、SAKEは、より幅広い体型にフィットしやすいワンプリーツのテーパードで、ウエストをゴムやドローコード仕様にしたリラックスモデル「SAKE 1P GYM」なども展開。BERWICHのデザインの幅広さを示している。
BERWICHというクラシックを履く
現代のスラックスを「アクティブ」と「クラシカル」の2軸で分けるとするならば、BERWICHはより「クラシカル」に振り切ったブランドと言って差し支えないだろう。数あるイタリアのパンツブランドの中で、BERWICHが放つクラシカルな魅力は、独自のポジションを築いている。例えば、PT TORINOのようなモダンで洗練されたシルエットを追求するブランドとは、また異なるアプローチで多くのファンを魅了する。
BERWICHが提案する「クラシック」とは、イタリアの伝統的な仕立てやヴィンテージのディテールに深い敬意、身体を立体的に見せるための緻密な設計、そしてMade in Italyにこだわるという、揺るぎない哲学の上に成り立っている。
「流行りのパンツも良いけれど、もっと自分のスタイルに長く寄り添ってくれる一本が欲しい」 「快適なだけでなく、歴史や背景を感じられる、物語のある服を身に着けたい」
BERWICHのパンツは、まさにそうした想いに応えてくれる。プリーツの入り方一つ、ボタンの意匠一つに、ブランドが積み重ねてきた歴史と哲学が息づいている。それは、穿く人に自信を与え、日常のスタイルに深みと奥行きをもたらしてくれるはずです。
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